【後編】キッチンカー開業ガイド:開業までの流れとよくある不許可事例
はじめに ―確実に許可を取得するために―
前編では、キッチンカー開業に必要な許可の種類と、車両設備の基準について解説しました。特に給水タンクの容量によって営業範囲が大きく変わることをご理解いただけたかと思います。
後編では、実際に開業するまでの具体的な流れと、保健所の検査でよくある不許可事例について詳しく解説します。事前に失敗パターンを知っておくことで、スムーズな許可取得につながります。
4. 開業までの流れ
キッチンカーで営業を開始するまでには、いくつかのステップを踏む必要があります。ここでは、最も効率的な開業の流れを順を追って説明します。
ステップ1:コンセプトとメニューの決定
まず、「何を」「誰に」「どこで」売るかを明確にします。販売するメニューによって必要な設備や給水タンクの容量が変わるため、開業準備の最初にコンセプトを固めることが重要です。
例えば、クレープやたこ焼きなどの軽食であれば80Lタンクで対応可能ですが、ラーメンや本格的な弁当を提供したい場合は200Lタンクが必要になる可能性があります。メニューを決める際は、以下の点を考慮しましょう。
- ターゲット顧客(オフィス街のランチ需要、イベント来場者、ファミリー層など)
- 出店場所の特性(駅前、オフィス街、イベント会場、住宅地など)
- 競合との差別化ポイント
- 原価率と利益率
- 調理時間と提供スピード
ステップ2:保健所への事前相談(最重要)
メニューが決まったら、営業予定地を管轄する保健所に事前相談に行きます。この段階で、以下の内容を確認します。
- 提供予定メニューに必要な給水タンクの容量
- 車両設備の具体的な基準
- シンクのサイズや配置
- 申請に必要な書類一覧
- 検査の日程や流れ
事前相談は1回で終わらないことが一般的です。キッチンカーの設計図や販売メニューを持参し、保健所担当者から具体的なアドバイスをもらいながら、何度か相談に訪れることをおすすめします。
重要なポイント:複数の地域で営業したい場合は、それぞれの保健所で事前相談が必要です。保健所によって基準が微妙に異なるため、すべての保健所の基準を満たす車両を準備する必要があります。
ステップ3:食品衛生責任者資格の取得
保健所への事前相談と並行して、食品衛生責任者の資格を取得します。オンライン講習であれば、自宅で受講できるため、時間を有効活用できます。受講後に発行される修了証は、営業許可申請時に必要になるため、大切に保管しましょう。
ステップ4:車両の準備
保健所からのアドバイスをもとに、基準を満たしたキッチンカーを準備します。選択肢は主に3つあります。
新車で製作する:内外装を理想通りに仕上げられますが、改装費込みで300万円~500万円程度の費用がかかります。
中古車を購入する:初期コストを抑えられますが、前オーナーが取得していた許可基準が現在の基準と異なる場合があるため、注意が必要です。
レンタル・リースを利用する:初期投資を最小限に抑え、まずは試してみたい方に適しています。
いずれの方法でも、保健所の基準を満たしていることを確認してから契約・購入することが絶対条件です。
ステップ5:営業許可申請書類の準備と提出
車両の準備が整ったら、保健所に営業許可申請書類を提出します。必要な書類は保健所によって若干異なりますが、一般的には以下のものが求められます。
- 営業許可申請書(保健所指定の様式)
- 車両の設計図(平面図・立面図)
- 食品衛生責任者の資格証明書
- 車検証の写し
- 営業設備の大要(設備の配置図など)
- 水質検査成績書(井戸水を使用する場合)
- 手数料(16,000円~19,000円程度、愛知県収入証紙で納付)
書類に不備があると受理されず、再提出が必要になります。提出前に保健所で書類の確認をしてもらうことをおすすめします。
ステップ6:保健所による車両検査
申請が受理されると、保健所の担当者による車両検査の日程が決まります。検査当日は、車両を指定された場所(保健所の駐車場や営業予定地など)に持ち込み、設備基準を満たしているかを確認してもらいます。
検査では、以下のような項目がチェックされます。
- シンクの数と配置
- 蛇口の種類(手洗い用は非接触型か)
- 給排水タンクの容量と設置状況
- 冷蔵設備の有無と機能
- 照明の明るさ
- 換気設備の有無
- 蓋付きゴミ箱の設置
- 調理スペースと運転席の区画
- 石鹸・消毒液の配置
検査に合格すれば、数日から1週間程度で営業許可証が交付されます。不合格の場合は、指摘事項を改善した上で、再検査を受ける必要があります。
ステップ7:営業開始
営業許可証を受け取ったら、いよいよ営業開始です。許可証はキッチンカー内の見やすい場所に常時掲示する必要があります。
また、出店場所によっては、道路使用許可や出店契約が別途必要になります。イベント会場やショッピングモールなどでは、主催者や管理者との契約も必要です。
5. よくある不許可事例
保健所の検査で不合格となり、許可が下りないケースは決して少なくありません。ここでは、よくある不許可事例を紹介し、事前に対策を講じられるようにします。
事例1:手洗いシンクの蛇口が接触型
不許可の理由:手洗い専用シンクの蛇口が、通常のひねるタイプ(接触型)だった。
手洗い後に蛇口のハンドルを触ることで再汚染を防ぐため、手洗いシンクの蛇口は非接触型(レバー式、自動センサー式、足踏み式)でなければなりません。通常のひねるタイプの蛇口では許可が下りません。
対策:車両製作時や改造時に、必ずレバー式などの非接触型蛇口を設置する。中古車を購入する場合は、蛇口の種類を必ず確認し、接触型であれば交換する。
事例2:給水タンクの容量不足
不許可の理由:提供予定のメニューに対して、給水タンクの容量が不足していた。
例えば、「たこ焼きとドリンクの2品目を提供したい」と申請したのに、給水タンクが40Lしかなかった場合、40Lでは単品のみしか提供できないため不許可となります。
対策:メニューを決める段階で、必要な給水タンク容量を保健所に確認する。複数メニューを展開したい場合は、最低でも80L以上のタンクを用意する。
事例3:シンクが1つしかない
不許可の理由:手洗い専用シンクと調理器具洗浄用シンクを分けず、1つのシンクで兼用しようとした。
食中毒予防の観点から、手洗い用と調理用は必ず分ける必要があります。「小さい車だからシンク1つで許可してほしい」という要望は認められません。
対策:車両のサイズに関わらず、必ず2槽以上のシンクを設置する。スペースが限られている場合は、コンパクトなシンクを選ぶなどの工夫をする。
事例4:排水タンクの容量が給水タンクより小さい
不許可の理由:給水タンクが80Lなのに、排水タンクが60Lしかなかった。
排水タンクは、給水タンクと同等以上の容量が必要です。給水した水はすべて排水タンクに流れるため、給水タンクより小さい排水タンクでは物理的に対応できません。
対策:給水タンクと同じ容量、またはそれ以上の排水タンクを用意する。給水80Lなら排水も80L以上にする。
事例5:運転席と調理スペースの区画が不十分
不許可の理由:運転席と調理スペースの間に仕切りがなく、食材や調理器具が運転席側に移動してしまう状態だった。
安全性と衛生面の観点から、運転スペースと調理スペースは明確に区画する必要があります。カーテンだけで仕切るのは不十分とされるケースが多いです。
対策:壁や仕切り板を設置し、物理的に区画する。仕切りの高さや材質について、保健所に事前確認する。
事例6:石鹸・消毒液の未設置
不許可の理由:検査当日、手洗いシンクの近くに石鹸や手指消毒液が置かれていなかった。
些細なことに思えますが、石鹸と消毒液の配置は保健所の検査で必ずチェックされる項目です。「後で買ってくる予定だった」では許可されません。
対策:検査日までに、手洗いシンクの近くに石鹸(液体石鹸が推奨)と手指消毒用アルコールを必ず配置しておく。
事例7:中古車の設備が旧基準のまま
不許可の理由:中古のキッチンカーを購入したが、2021年の法改正前の基準で製作されており、現在の基準を満たしていなかった。
2021年6月以前に製作された中古車の場合、手洗いシンクの蛇口が接触型だったり、給水タンクの容量区分が異なっていたりする可能性があります。
対策:中古車を購入する場合は、現在の基準を満たしているか必ず確認する。満たしていない場合は、購入前に改造費用も含めて検討する。
事例8:複数地域での営業を想定せず1箇所の基準だけで製作
不許可の理由:A市の保健所の基準は満たしていたが、B市で営業しようとしたところ、B市の保健所の基準を満たしておらず不許可となった。
保健所によって細かい基準が異なるため、複数地域で営業予定の場合は、すべての保健所の基準を満たす必要があります。
対策:営業予定のすべての保健所で事前相談を行い、最も厳しい基準に合わせて車両を製作する。
おわりに ―確実な許可取得で安心してスタートを―
キッチンカー開業は、店舗型飲食店と比較して初期投資が少なく、機動性も高い魅力的なビジネスモデルです。しかし、営業許可の取得には、細かい設備基準を満たす必要があり、保健所ごとに運用が異なる点にも注意が必要です。
前編で解説した許可の種類や設備基準、後編で紹介した開業までの流れとよくある不許可事例を参考に、確実に許可を取得して開業を成功させてください。
最も重要なのは、保健所への事前相談を徹底することです。車両を製作・購入する前に、必ず営業予定地を管轄する保健所で基準を確認しましょう。複数地域で営業する場合は、すべての保健所の基準を満たす車両を準備することが成功の鍵です。
愛知県をはじめとする東海地区でキッチンカー開業を検討されている個人事業主・中小企業の皆様が、スムーズに営業許可を取得し、事業を大きく発展させていくための一助となれば幸いです。
キッチンカー開業に関するご相談や営業許可申請の代行をご希望の場合は、プラスワンマネジメントまでお気軽にお問い合わせください。行政書士として、許可取得の事前相談から申請代行、事業計画の策定まで、トータルでお手伝いいたします。

