製造業で起きがちな”許可の落とし穴”と開業前に必ず見直すべき点

はじめに ―設備投資の前に立ち止まる重要性―

製造業での開業を検討されている個人事業主や中小企業の皆様から、「設備を購入してから環境規制に引っかかった」「物件契約後に許可が取れないことが判明した」という相談を数多くいただきます。製造業の開業には、飲食業や小売業とは異なる複雑な許認可と環境規制が存在します。

本記事では、製造業開業でよく見落とされる許可・届出から、最大の落とし穴である環境規制、工場立地法や都市計画の確認ポイントまで、行政書士の視点から実践的に解説します。


1. 許可・届出の必要性の誤解

製造業開業において、最も多い誤解が「製造業なら開業届を出せば営業できる」という認識です。実際には、製造する製品の種類や使用する設備によって、様々な許可や届出が必要になります。

食品製造業の場合

食品製造業(菓子製造、惣菜製造、食肉製品製造など)では、保健所から「食品製造業許可」の取得が必須です。設備基準として、専用の製造室、手洗い専用シンク、調理器具洗浄用シンク、冷蔵・冷凍設備、換気設備などが求められます。特に、製造室と事務スペースを明確に区画することが必要で、この点を理解せずに物件を契約すると、後から高額な工事が必要になります。

化粧品・医薬部外品製造業の場合

化粧品や医薬部外品を製造する場合、都道府県から「化粧品製造業許可」または「医薬部外品製造業許可」を取得する必要があります。清浄区域の設定、空調管理、排水処理設備など、非常に厳格な設備基準が設けられています。

金属加工・機械製造業の場合

金属加工や機械製造業では、食品製造業のような「製造業許可」は基本的に不要です。しかし、騒音や振動を発生する設備(プレス機、研削盤、圧縮機など)を使用する場合、騒音規制法・振動規制法に基づく届出が必要になります。

ここが落とし穴:「自分の業種には許可が不要」と判断する前に、必ず管轄の保健所や都道府県庁に確認しましょう。


2. 排水・騒音・臭気など環境規制(最大の落とし穴)

製造業開業において、最も見落とされやすく、かつ最も影響が大きいのが環境規制です。設備導入後に規制に引っかかった場合、設備の改修や移転を余儀なくされるため、事前確認が極めて重要です。

排水規制:下水道法・水質汚濁防止法

製造工程で水を使用し、排水を公共下水道や河川に流す場合、排水の水質基準が定められています。pH、BOD(生物化学的酸素要求量)、SS(浮遊物質量)、重金属類など、項目ごとに排水基準が設けられています。

よくある失敗事例:金属加工業で、研磨や洗浄工程からの排水に重金属が含まれていたが、排水処理設備を設置していなかったため、操業開始後に自治体から排水基準違反を指摘され、高額な排水処理設備の導入を余儀なくされた。

食品製造業でも、洗浄排水に油分や有機物が多く含まれる場合、グリーストラップ(油水分離装置)の設置が必要です。また、1日の排水量が50m³以上の場合、水質汚濁防止法に基づく届出が必要になります。

対策:物件契約前に、製造工程で発生する排水の種類と量を明確にし、市町村の下水道課に排水基準や必要な処理設備について相談しましょう。

騒音・振動規制:騒音規制法・振動規制法

金属加工機械(プレス機、せん断機、研削盤)、圧縮機、織機、印刷機など、騒音や振動を発生する設備は「特定施設」に該当します。特定施設を設置する場合、工事着手の30日前までに市町村長へ届出が必要です。

さらに、工場の敷地境界線において、区域や時間帯ごとに定められた騒音・振動の規制基準を遵守しなければなりません。住居系地域では特に厳しい基準が設けられており、昼間でも5060デシベル以下、夜間は4050デシベル以下といった基準が一般的です。

よくある失敗事例:住宅地に近い準工業地域で金属加工工場を開業したが、プレス機の騒音が規制基準を超え、近隣住民から苦情が発生。防音壁の設置や作業時間の制限を余儀なくされた。

対策:設備を購入する前に、その設備が特定施設に該当するかを確認し、物件の立地が騒音・振動規制の対象地域かを市町村の環境課に確認しましょう。

悪臭規制:悪臭防止法・条例

食品製造(特に発酵食品、魚介加工)、化学製品製造、塗装・印刷など、悪臭を発生させる可能性のある製造業は、悪臭防止法や地方自治体の条例による規制を受けます。地域によって規制方法が異なるため、事前確認が必要です。

対策:製造工程で悪臭が発生する可能性がある場合、脱臭装置や排気処理設備の設置を計画に含めましょう。


3. 工場立地法・都市計画の確認

工場立地法の規制

工場立地法は、一定規模以上の工場に対して、敷地内に緑地などを整備することを義務付けた法律です。以下の条件に該当する「特定工場」が対象となります。

  • 業種:製造業、電気・ガス・熱供給業(一部除く)
  • 規模:敷地面積9,000m²以上 または 建築面積3,000m²以上

特定工場では、生産施設面積を敷地の30~65%以内(業種による)に抑え、緑地面積を敷地の20%以上、環境施設面積(緑地を含む)を25%以上確保する必要があります。新設・増設・用途変更をする場合、工事着手の90日前までに自治体に届出が必要です。

都市計画法・用途地域の確認

都市計画法では、土地を用途地域に分類し、建築できる建物の種類を制限しています。製造業の工場は、用途地域によって建築可否が大きく異なります。

  • 工業専用地域・工業地域:ほぼすべての工場が建築可能
  • 準工業地域:環境悪化の恐れが少ない工場は建築可能
  • 住居系地域:原則として工場建築不可

ここが落とし穴:「安い物件を見つけた」と飛びついたら、用途地域が住居地域で工場建築が不可だったというケースがあります。物件契約前に、必ず市町村の都市計画課で用途地域と建築制限を確認しましょう。


4. 開業前のチェック項目

製造業開業をスムーズに進めるため、以下のチェック項目を確認しましょう。

物件契約前の確認事項

  • 用途地域と建築制限(都市計画課)
  • 騒音・振動規制の対象地域か(環境課)
  • 排水先と排水基準(下水道課)
  • 工場立地法の対象となる規模か(商工課)

設備購入前の確認事項

  • 使用予定設備が特定施設(騒音・振動・排水)に該当するか
  • 必要な環境対策設備(排水処理、防音壁、脱臭装置など)
  • 電力容量・ガス供給能力の確保

行政への事前相談が最重要

設備投資や物件契約の前に、保健所、都道府県庁、市町村の環境課・下水道課・商工課・都市計画課で必ず事前相談を行いましょう。「設備を買ってから相談に来た」では手遅れになることも少なくありません。


5. 行政が重視するポイント

行政が製造業の許可・届出審査で特に重視するポイントを理解しておきましょう。

近隣住民への配慮

工場から発生する騒音・振動・悪臭・排水などが、近隣住民の生活環境に悪影響を及ぼさないかが最重要視されます。特に住宅地に近い立地では、基準値以下でも苦情が発生しやすいため、基準値の50~70%程度に抑える計画が望ましいです。

環境対策の実効性

排水処理設備や防音設備などの環境対策が、実際に有効に機能するかが審査されます。設備の仕様書や処理能力を示す資料の提出が求められることもあります。

事業計画と設備配置の整合性

製造する製品、製造工程、使用する設備、必要な環境対策設備が、事業計画として整合性を持って説明できるかが重要です。しっかりとした事業計画書を作成し、設備配置図と合わせて説明できるように準備しましょう。


おわりに

製造業開業では、許可・届出の必要性を正しく理解し、特に環境規制(排水・騒音・臭気)に細心の注意を払うことが成功の鍵です。工場立地法や都市計画法の確認も不可欠で、これらを怠ると、設備投資後に操業不可能となる最悪のケースもあり得ます。

最も重要なのは、設備投資や物件契約の前に、必ず行政の担当窓口に相談することです。事前相談を徹底し、計画段階から環境対策を織り込むことで、スムーズな開業と安定した操業が実現できます。

愛知県をはじめとする東海地区で製造業開業を検討されている皆様の成功を、心より応援しています。

製造業開業に関するご相談や許認可申請の代行をご希望の場合は、プラスワンマネジメントまでお気軽にお問い合わせください。行政書士・中小企業診断士として、開業前のコンサルティングから許認可申請、事業計画書の作成まで、トータルでサポートいたします。

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