「売上目標」がない事業計画は通らない—具体的な立て方
はじめに:曖昧な売上計画が審査で落とされる理由
融資や補助金の申請で事業計画書を作成する際、最も重要でありながら、多くの経営者が苦労するのが「売上目標」の設定です。
「まあ、これくらいは売れるだろう」「頑張れば達成できそう」——そんな感覚的な売上計画では、審査を通過することはできません。なぜなら、審査担当者が知りたいのは「なぜその売上になるのか」という明確な根拠だからです。
私がこれまで多くの事業計画書を見てきた中で、不採択になる計画の多くは、売上目標の根拠が曖昧でした。逆に、売上の立て方が精緻で説得力のある計画は、高い確率で採択されています。
本記事では、融資・補助金申請で評価される売上目標の具体的な立て方を、実務的な視点で解説します。
① 売上目標が与える信用と説得力
まず、なぜ売上目標がこれほど重要なのかを理解しておきましょう。
売上目標は事業計画書の軸であり土台
売上目標は、事業計画書の軸であり土台です。なぜその売上になる見込みなのかということが精緻に語れる計画書は、隙が少ないのです。
審査担当者は、事業計画書を読みながら「この数字は本当に実現可能なのか」「どこに無理があるのか」を常にチェックしています。売上の根拠が明確であれば、計画全体の信頼性が高まります。
売上の前提が崩れると全体が崩壊する
逆に、売上目標の前提が脆弱である場合、その他の費用の前提も総崩れになってしまいます。
例えば、「月間売上300万円」という目標を立てたとします。しかし、その根拠を聞かれて「だいたいこれくらいは売れると思います」という回答では、審査担当者は「では、200万円しか売れなかったらどうなるのか」「400万円売れたら対応できるのか」といった疑問を持ちます。
売上が不確かであれば、それに基づく仕入計画、人員計画、設備投資計画もすべて不確かになってしまうのです。
精緻な売上計画が信頼を生む
一方、「1日あたり平均20人の来客を見込み、客単価1,500円で月間売上90万円。営業日数25日で月商225万円」といった具体的な積み上げがあれば、審査担当者は「この経営者は現実的に考えている」と評価します。
このように、売上目標の精緻さが、経営者の信頼性と計画の説得力に直結するのです。
② 年次・月次目標の立て方と根拠:原単位から積み上げる
それでは、具体的にどのように売上目標を立てればよいのでしょうか。
時間当たりから積み上げる方法が最も精緻
最も精緻な計画の立て方は、時間当たりから売上の目標を積み上げる方法です。
この方法では、最小単位(1時間、1日、1件など)での売上を計算し、それを営業日数や稼働時間で掛け算していきます。この積み上げ方式により、根拠のある売上計画を作成できます。
「原単位」の整理が肝
そのためには「原単位」の整理が肝となります。
原単位とは、前提となる各売上の単価設定のことです。具体的には以下のような要素です。
飲食業の場合
- 客単価:1,200円
- 回転数:ランチ1.5回転、ディナー1回転
- 座席数:20席
- 営業日数:月25日
製造業の場合
- 製品単価:8,000円
- 1日あたり生産数:50個
- 稼働日数:月20日
- 不良率:2%
サービス業の場合
- 時間単価:5,000円
- 1日稼働時間:7時間
- 稼働率:70%(移動・事務作業を除く)
- 営業日数:月22日
小売業の場合
- 平均客単価:2,500円
- 1日あたり来客数:30人
- 営業日数:月26日
- 購買率:60%(来店者のうち購入する割合)
原単位が精緻であるほど精度が高まる
この原単位が精緻であるほど、精緻な計画を作成することができます。
例えば、飲食業で「客単価1,200円」と設定する場合、それが過去の実績データに基づくものなのか、競合店の調査結果なのか、メニュー構成から計算したものなのか——こうした根拠があることで、説得力が格段に増します。
月次から年次への展開
原単位から月次の売上を計算したら、それを年次に展開します。ただし、単純に12倍するのではなく、季節変動や事業の成長を考慮することが重要です。
例えば、創業1年目は認知度が低いため売上が控えめ、2年目以降はリピーター増加により売上が向上、といった現実的なシナリオを描くことが求められます。
③ 市場規模と競合比較からの逆算手法
原単位を積み上げる方法は精緻ですが、新規事業の場合は難しい面もあります。
新規事業では積み上げが困難
新規事業の場合、精緻な原単位を積み上げるのは簡単なことではありません。実績データがなく、どの程度の客数や単価が見込めるのか、確信を持てないからです。
市場規模から自社のシェアを想定
その場合は、目指している市場の規模や競合となりうる企業を分析することで、精度の高い売上計画を立てることができます。
具体的な手順は以下の通りです。
ステップ1:市場規模の把握 自社が参入する市場の全体規模を調べます。業界団体の統計資料、商工会議所のデータ、総務省の統計などが活用できます。
ステップ2:商圏の設定 自社がカバーできる商圏を設定します。例えば、店舗型ビジネスなら半径○km、オンラインビジネスなら全国など。
ステップ3:商圏内の市場規模算出 全体市場規模から、自社の商圏内の市場規模を推計します。
ステップ4:シェアの想定 競合の状況を分析し、自社が獲得できるシェアを現実的に想定します。新規参入の場合、初年度は1~3%程度が現実的なラインです。
競合分析との組み合わせ
同時に、競合企業の売上規模や店舗数、従業員数などを調査します。「競合A社は従業員5名で年商5,000万円」といった情報があれば、自社の規模感と照らし合わせて妥当性を検証できます。
この逆算手法により、「市場規模100億円の○%である1億円を目標とする」といった、マクロな視点からの根拠を示すことができます。
④ 売上推移と費用構造の整合性:固変分析の重要性
売上目標を立てたら、次に重要なのが費用との整合性です。ここが最も重要なポイントです。
売上と費用は連動する
売上が増減すれば、当然費用も変動していきます。売上が2倍になれば仕入も2倍になりますし、売上が半分になれば仕入も半分になるはずです。
しかし、売上が増減しても変動しない費用もあります。正社員の給与や設備の減価償却費がその代表例です。
固定費と変動費の違い
このように、費用には売上によって変動する経費(変動費)と変わらない経費(固定費)の二つに分けられます。
変動費の例
- 売上原価(仕入・材料費)
- 外注費
- 販売手数料
- 梱包・配送費
- 一部の光熱費
固定費の例
- 正社員の給与
- 地代家賃
- 減価償却費
- リース料
- 保険料
- 一部の光熱費
固変分析で精緻な計画が可能に
こういった費用の分類を固変分析と言います。
固変分析ができれば、売上の変動に応じて費用がどう変化するかを正確に予測できます。そして、計画を実行に移した後の予実管理でも、「なぜ計画通りに利益が出ないのか」について精緻に分析することができます。
具体的な計算例
例えば、月商300万円の飲食店の場合:
変動費
- 原材料費:90万円(売上の30%)
- 外注費:15万円(売上の5%)
- 変動費合計:105万円(売上の35%)
固定費
- 家賃:40万円
- 正社員給与:80万円
- 光熱費:10万円
- その他:20万円
- 固定費合計:150万円
損益
- 売上:300万円
- 変動費:105万円
- 限界利益:195万円(売上の65%)
- 固定費:150万円
- 営業利益:45万円
この場合、もし売上が250万円に減少すると:
- 変動費:87.5万円(250万円×35%)
- 限界利益:162.5万円
- 固定費:150万円(変わらず)
- 営業利益:12.5万円
このように、固変分析により、売上の変動が利益にどう影響するかを正確に把握できます。
損益分岐点の把握
固変分析ができると、損益分岐点(利益がゼロになる売上高)も計算できます。
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率
上記の例では: 150万円 ÷ 65% = 約231万円
つまり、月商231万円を下回ると赤字になることがわかります。この情報は、事業のリスク管理において非常に重要です。
⑤ 実現可能性を示すためのシナリオ分岐法
精緻な売上計画を立てても、実際にはその通りにいかないのが事業の現実です。
メインシナリオだけでは不十分
事業計画書のメインシナリオは一つです。しかし、実際には思わぬ外的要因で計画に横やりが入る場合があります。
数年前の新型コロナウイルスなどがその典型例です。そこまで大きな変化でなくても、市場環境や競合の動向など、刻々と状況は変化しています。
シナリオ分岐で実現可能性を示す
その中で、計画がどこまで実現可能性があるかを示すには、どの程度まで減収影響を許容できる計画になっているかが重要です。
具体的には、以下の3つのシナリオを用意します。
楽観シナリオ(120%)
- 市場環境が良好で、想定以上に顧客獲得が進んだ場合
- 売上:メイン計画の120%
- この場合でも対応できる体制(人員、設備、仕入先)の確保が必要
標準シナリオ(100%)
- メインの事業計画
- 現実的で達成可能な目標設定
悲観シナリオ(70~80%)
- 市場環境の悪化や競合の影響で、想定を下回った場合
- 売上:メイン計画の70~80%
- この場合でも黒字を維持できるかが重要
悲観シナリオでも利益が出る計画が理想
仮に売上が計画の7割になってもきちんと利益が出る場合、かなり実現可能性が高いといえます。
これは、固定費を抑えた事業構造になっているか、変動費率が低い(利益率が高い)ビジネスモデルになっているかを示すものです。
審査での評価ポイント
審査担当者は、このシナリオ分岐を見ることで、経営者のリスク管理能力や事業の健全性を評価します。
「計画通りにいかなかった場合、どう対応するのか」「どこまでなら耐えられるのか」——こうした視点を持っている経営者は、信頼できると判断されるのです。
⑥ まとめ:売上を”語れる”ことが申請成功に直結
融資や補助金の申請において、売上目標は単なる数字ではありません。その数字を根拠を持って”語れる”ことが、申請成功に直結します。
原単位から積み上げる方法、市場規模から逆算する方法、どちらを使うにしても、「なぜその売上になるのか」を明確に説明できることが重要です。
そして、売上と費用の整合性を固変分析で示し、シナリオ分岐で実現可能性を裏付ける——この一連の流れが、説得力のある事業計画書を作り上げます。
私がこれまで支援してきた中で、売上計画が精緻で、費用構造との整合性が取れている計画書は、高い確率で採択されています。逆に、売上の根拠が曖昧な計画は、どれだけ他の部分が優れていても、審査を通過することは難しいのです。
「だいたいこれくらい売れるだろう」という感覚ではなく、「なぜその売上になるのか」を論理的に説明できる計画を作ることが、融資・補助金獲得の第一歩です。
一人で悩まず、専門家の力を借りながら、審査で評価される売上計画を作成していきましょう。

