【前編】個人事業主でも取得できる?建設業許可の要件を徹底解説
はじめに ―個人でも法人と同じ土俵で勝負できる―
建設業を営む個人事業主の皆様から、「法人でないと建設業許可は取れないのでは?」というご質問を数多くいただきます。結論から申し上げますと、個人事業主でも建設業許可の取得は十分に可能です。実際、愛知県をはじめとする東海地区でも、多くの個人事業主が建設業許可を取得し、大規模な工事案件や公共工事に参入されています。
建設業許可を取得することで、500万円以上(建築一式工事は1,500万円以上)の工事を請け負うことができ、ビジネスチャンスが大きく広がります。また、取引先や元請け業者からの信頼性も格段に向上し、継続的な受注につながるケースが少なくありません。
本記事の前編では、建設業許可取得の基本要件から、個人事業主が特に注意すべきポイントまで、行政書士の視点から実践的な情報をお届けします。
1. 個人事業主でも建設業許可は取得できる
建設業法において、建設業許可の申請主体は「法人」と「個人」の両方が認められています。つまり、個人事業主であっても、所定の要件を満たせば建設業許可を取得することが可能です。
許可取得の主なメリット
個人事業主が建設業許可を取得するメリットは多岐にわたります。まず、請負金額の制限がなくなることで、これまで受注できなかった大型案件にチャレンジできるようになります。特に、リフォーム工事や住宅建築、土木工事などの分野では、500万円を超える工事は決して珍しくありません。
また、取引先からの信頼性向上も大きなメリットです。建設業許可を取得しているということは、一定の技術力と経営基盤があることの証明になります。元請け業者や住宅メーカーとの取引では、許可の有無が取引条件となっているケースも多く、許可取得が新規取引の扉を開く鍵となることも少なくありません。
さらに、公共工事への入札参加も視野に入ってきます。公共工事の入札には建設業許可が必須条件となっており、許可取得は事業拡大の重要なステップとなります。
個人事業主ならではの注意点
ただし、個人事業主が建設業許可を取得する場合、法人とは異なる注意点があります。個人名義で取得した許可は、法人成りした際には引き継ぐことができません。将来的に法人化を検討されている場合は、そのタイミングも含めた事業計画を立てることが重要です。
2. 許可取得の主要3要件
建設業許可を取得するためには、大きく分けて3つの主要要件をクリアする必要があります。それぞれの要件について、個人事業主の視点から詳しく見ていきましょう。
要件①:経営業務管理者(経管)
経営業務管理者とは、建設業の経営に関する一定の経験を有する者のことを指します。個人事業主の場合、事業主本人がこの要件を満たす必要があります。
具体的な要件は、取得しようとする建設業の業種について5年以上の経営経験、または他業種の建設業について6年以上の経営経験が求められます。ここでいう「経営経験」とは、個人事業主として建設業を営んでいた期間、あるいは建設業を営む法人の取締役として経営に携わっていた期間を指します。
令和2年の建設業法改正により、経営業務管理者の要件が一部緩和されました。直接的な経営経験が不足している場合でも、補佐経験が6年以上ある場合や、建設業に関する財務管理・労務管理・業務運営の経験が一定期間ある場合には、要件を満たすことができるようになりました。
経営経験の証明には、確定申告書の控え、工事請負契約書、注文書・請書、通帳の写しなど、実際に建設業を営んでいたことを示す客観的な資料が必要となります。個人事業主の場合、法人のように登記簿謄本で証明することができないため、この証明書類の準備が非常に重要になります。
要件②:専任技術者
専任技術者とは、営業所に常勤して専門的な技術指導を行う者のことです。個人事業主の場合、事業主本人が専任技術者を兼ねることも可能ですが、別の技術者を置くこともできます。
専任技術者の資格要件は、大きく3つのパターンがあります。第一に、建築士、建築施工管理技士、土木施工管理技士、電気工事士など、取得しようとする業種に関連する国家資格を保有している場合です。これが最もシンプルで確実な方法といえるでしょう。
第二に、実務経験による証明です。取得しようとする業種について、一般建設業であれば10年以上の実務経験があれば専任技術者になることができます。
第三に、指定学科卒業と実務経験の組み合わせです。高校の指定学科を卒業している場合は5年以上、大学や高専の指定学科を卒業している場合は3年以上の実務経験で要件を満たすことができます。
実務経験を証明する場合も、工事請負契約書、注文書・請書、工事台帳など、実際にその業種の工事に従事していたことを示す資料が必要となります。
要件③:財務要件(500万円の資金力)
建設業許可を取得するためには、一定の財産的基礎があることを証明する必要があります。一般建設業の場合、500万円以上の資金調達能力があることが要件となります。
この財務要件を証明する方法は、主に2つあります。第一に、自己資本が500万円以上あることです。個人事業主の場合、確定申告書の貸借対照表において、資産総額から負債総額を引いた金額(純資産額)が500万円以上あれば要件を満たします。
第二に、金融機関が発行する残高証明書(預金残高が500万円以上)を提出することで証明できます。この残高証明書は、申請日の直近の日付で取得する必要があります。
個人事業主の場合、法人に比べて自己資本が少ないケースが多いため、金融機関の残高証明書で証明する方法が一般的です。ただし、残高証明書を取得するタイミングには注意が必要で、他の用途で資金を使用する前に証明書を取得しておく必要があります。
3. 個人事業主がクリアしにくいポイント
個人事業主が建設業許可を取得する際、法人と比較して特に課題となりやすいポイントがあります。事前にこれらの課題を理解し、適切に対策を講じることが、スムーズな許可取得につながります。
最大の難関:経営経験の証明
個人事業主が直面する最も大きな課題が、経営経験の証明です。法人の場合、登記簿謄本により取締役在任期間を明確に証明できますが、個人事業主にはそのような公的な証明書類が存在しません。
そのため、過去の確定申告書の控え、工事請負契約書、注文書・請書、通帳の写し、工事台帳など、複数の資料を組み合わせて経営実態を証明する必要があります。特に、5年や6年という長期間にわたって継続的に建設業を営んでいたことを示すためには、各年度の確定申告書とともに、実際の工事案件を裏付ける契約書類が不可欠です。
問題となりやすいのは、過去の書類を十分に保管していなかった場合です。特に事業を始めたばかりの頃は、将来建設業許可が必要になるとは考えておらず、契約書や請書などを体系的に保管していないケースが少なくありません。
このような場合でも、取引先から契約書の写しを再発行してもらう、振込記録や請求書・領収書で工事の実態を示すなど、代替的な証明方法を検討する必要があります。行政書士などの専門家に相談しながら、限られた資料でいかに経営実態を証明するかが重要なポイントとなります。
財務要件証明の課題
個人事業主の場合、事業資金と生活資金の区別が曖昧になりがちです。確定申告書の貸借対照表で純資産500万円以上を証明しようとする場合、青色申告で複式簿記による帳簿作成が必要です。白色申告の場合、貸借対照表を作成していないケースが多く、この方法での証明が困難になります。
また、事業用口座と個人用口座を分けていない場合、金融機関の残高証明書を取得しても、その資金が事業用なのか生活資金なのか判別しにくいという問題があります。
これらの課題を回避するためには、日頃から事業用の口座を明確に分け、会計処理を適切に行っておくことが重要です。また、許可申請を予定している場合は、計画的に資金を準備し、申請時期を見計らって残高証明書を取得するなどの戦略的な対応が求められます。
社会保険への加入義務
建設業許可を取得する際、個人事業主であっても従業員を雇用している場合は、社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入が義務付けられています。近年、建設業界全体で社会保険加入の適正化が進められており、許可申請時にも加入状況が厳しくチェックされるようになりました。
特に愛知県では、建設業許可申請時に社会保険等の加入状況を確認する書類の提出が求められます。従業員が5人以上いる場合は強制適用事業所となり、社会保険への加入が必須です。5人未満の場合でも、従業員を雇用しているのであれば労働保険(雇用保険・労災保険)への加入は必要です。
これまで社会保険に加入していなかった個人事業主にとって、保険料負担は決して小さくありません。しかし、建設業許可を取得して事業を拡大していくためには避けて通れない要件であり、事業計画の中に保険料負担も組み込んでおく必要があります。
前編のまとめ
個人事業主でも建設業許可の取得は可能ですが、経営業務管理者、専任技術者、財務要件という3つの主要要件をクリアする必要があります。特に経営経験の証明は、個人事業主にとって最大の難関となることが多く、過去の書類を適切に保管し、計画的に準備を進めることが重要です。
後編では、最短で許可を取得するための具体的なルートと必要書類、さらに許可取得後の義務や注意点について詳しく解説します。
【後編へ続く】 次回は「最短取得ルートと許可取得後の義務」について詳しく解説します。
建設業許可の取得に関するご相談は、プラスワンマネジメントまでお気軽にお問い合わせください。

