事業計画書を「1枚」にまとめる技術:エレベーターピッチにも使える要約術
はじめに:1枚にできる=事業を理解している証拠
「事業計画書が10ページにもなってしまった」「面談で説明する時間がない」「結局、何が言いたいのかわからないと言われた」——そんな経験はありませんか?
私がこれまで多くの経営者を支援してきた中で感じるのは、事業計画書を1枚にまとめられない人ほど、事業の本質を理解できていないということです。
逆に言えば、1枚の紙に事業の核心をまとめられるということは、自分の事業を深く理解している証拠なのです。そして、それは相手に伝える力を劇的に高めます。
本記事では、事業計画書を「1枚」にまとめる技術と、それをエレベーターピッチ(短時間のプレゼン)にも応用する方法を解説します。
重要なのは、**1枚計画書は”簡略版”ではなく、”本質を抜き出した完成形”**だということです。文章量を減らす話ではなく、伝える力を高める技術なのです。
① なぜ「1枚計画書」が求められるのか
まず、なぜ1枚にまとめることが重要なのかを理解しましょう。
忙しい相手に伝える力
金融機関の担当者、投資家、補助金の審査員——彼らは非常に多忙です。1日に何十件もの事業計画書を読む必要があります。
そんな中で、10ページ以上の計画書を最初から丁寧に読んでもらえると思うのは甘い考えです。最初の1~2分で興味を持ってもらえなければ、詳しく読んでもらえません。
1枚にまとめた計画書があれば、相手は短時間で全体像を把握できます。そして、興味を持てば「詳しく聞かせてください」と言ってくれます。
面談・初回説明で有効
特に有効なのが、金融機関との初回面談や、補助金の申請前相談などの場面です。
事前に1枚計画書を送っておけば、相手はあなたの事業を事前に理解した状態で面談に臨めます。面談の時間を、質疑応答や深掘りに使えるため、非常に効率的です。
また、面談の最初に1枚計画書を配布し、それを見せながら説明することで、話が脱線せず、要点を押さえた説明ができます。
自分自身の理解を深める効果
1枚にまとめる作業は、相手のためだけではありません。自分自身の事業理解を深める効果もあります。
「何が本質なのか」「何を最も伝えたいのか」を突き詰めて考えることで、事業の核心が見えてきます。この作業を経ることで、詳細な事業計画書の質も劇的に向上します。
② 1枚に入れるべき情報【最重要】
それでは、1枚の中に何を入れるべきなのでしょうか。
基本構成:3つのブロック
1枚計画書は、以下の3つのブロックで構成します。
上段:事業概要(1~2行)
- 誰に、何を、どう提供するのか
- ビジネスモデルの核心を一言で
中段:課題・解決策・強み(3~5行)
- 顧客が抱える課題
- 自社の解決策
- 競合との違い(差別化ポイント)
下段:数字(3~5行)
- 売上・利益の見込み
- 必要資金と使途
- 返済計画(融資の場合)
具体的なテンプレート例
以下に、飲食店を例にしたテンプレートを示します。
【事業概要】
30代単身者向けに、栄養バランスの取れた健康志向の定食を提供する
テイクアウト専門店を、○○駅前に開業
【顧客の課題と解決策】
・課題:忙しい単身者は外食が多く、栄養バランスが偏りがち
・解決策:管理栄養士監修の日替わり定食を1食800円で提供
・強み:地元農家と直契約し、朝採れ野菜を当日提供。
既存顧客100名のリストあり(前職での人脈)
【数字の見込み】
・初年度売上:月商180万円(客数60人/日×単価1,000円×営業日25日)
・営業利益:月35万円(利益率20%)
・必要資金:800万円(設備500万、運転資金300万)
→自己資金300万円、融資500万円で調達
・返済:月10万円×5年で完済予定
(※あくまで一例です)
このように、A4用紙1枚に収まる情報量で、事業の全体像を伝えることができます。
各要素の書き方のポイント
事業概要
- 「誰に・何を・どこで」を明確に
- 専門用語を避け、誰でも理解できる表現で
課題・解決策
- 顧客視点で書く(自社視点ではない)
- 「なぜ必要とされるのか」が明確に
強み・差別化
- 具体的な数字や事実で裏付ける
- 「丁寧に対応します」のような抽象的表現は避ける
数字
- 積み上げ根拠を簡潔に示す
- 資金の出入りが一目でわかるように
③ 削るべき情報・残すべき情報【最重要】
1枚にまとめる最大の難関は、「何を削るか」です。多くの人が、削ることに恐怖を感じます。
削るべき情報:詳細説明は別資料へ
以下の情報は、1枚計画書からは削り、詳細版の事業計画書や補足資料に回します。
削るべき情報
- 詳細な市場調査データ
- 競合の詳細分析
- 月次の詳細な収支計画表
- 設備投資の詳細な見積もり
- 長期的なビジョン(5年後、10年後の展望)
- 経営者の詳しい経歴
「えっ、これらは重要な情報では?」と思うかもしれません。確かに重要です。しかし、**1枚計画書の目的は「興味を持ってもらうこと」**です。
詳細は、相手が興味を持った後に説明すればよいのです。
残すべき情報:本質だけを残す
一方、絶対に残すべき情報は以下です。
残すべき情報
- ビジネスモデルの核心
- 顧客が抱える課題と解決策
- 明確な差別化ポイント
- 売上・利益の見込み(1行でも可)
- 必要資金と使途(概算)
これらは、事業の「本質」です。これがないと、何の事業なのかが伝わりません。
判断基準:「これがないと説明できないか?」
削るか残すかの判断に迷ったら、以下の質問を自分にしてみてください。
「この情報がなくても、事業の核心は伝わるか?」
答えがYESなら、削ってかまいません。答えがNOなら、残すべき情報です。
編集力を高めるトレーニング
1枚にまとめる作業は、編集力のトレーニングになります。
最初は難しく感じるかもしれませんが、何度も繰り返すうちに、「本質を抜き出す力」が身につきます。この力は、事業計画書だけでなく、あらゆるビジネスシーンで役立ちます。
④ エレベーターピッチへの応用
1枚計画書ができたら、次はそれを口頭で説明する練習をしましょう。これが「エレベーターピッチ」です。
30秒で説明できる構成
エレベーターピッチとは、エレベーターに乗っている30秒~1分程度の短時間で、事業を説明する技術です。
投資家との偶然の出会い、金融機関での立ち話、異業種交流会での自己紹介——こうした場面で、簡潔に事業を説明できることは、大きなアドバンテージになります。
具体的なスクリプト例
先ほどの飲食店の例を、30秒のエレベーターピッチにすると以下のようになります。
エレベーターピッチ例(約30秒・120字)
「私は○○駅前で、忙しい単身者向けの健康志向テイクアウト専門店を開業します。管理栄養士として15年の経験を活かし、栄養バランスの取れた定食を1食800円で提供します。地元農家と直契約し、朝採れ野菜を使用することで差別化を図ります。初年度売上は月商180万円を見込んでいます。」
このように、1枚計画書の内容をさらに圧縮することで、短時間で事業の核心を伝えられます。
言語化のトレーニング
エレベーターピッチを作ったら、実際に声に出して練習しましょう。
- タイマーで30秒を計る
- 家族や友人に聞いてもらう
- 録音して聞き直す
こうした練習を繰り返すことで、自然に、わかりやすく説明できるようになります。
そして重要なのは、暗記するのではなく、理解して自分の言葉で語ることです。暗記した言葉は、相手に響きません。
⑤ 1枚計画書の活用シーン
最後に、1枚計画書の具体的な活用シーンを見ていきましょう。
金融機関面談での活用
初回面談時 事前に1枚計画書を送付するか、面談の冒頭で配布します。これにより、担当者は短時間で事業を理解でき、深い質問ができます。
「この数字の根拠は?」「この強みは本当に差別化になる?」といった本質的な議論に時間を使えます。
面談後のフォロー 面談後、担当者が審査部に説明する際にも、1枚計画書は有効です。担当者が審査部に「この事業は面白い」と推薦しやすくなります。
投資家・VCへのアプローチ
投資家やベンチャーキャピタルへのアプローチでは、まず1枚計画書(またはエグゼクティブサマリー)で興味を引くことが重要です。
詳細なピッチ資料は、興味を持ってもらった後に送れば十分です。
補助金申請の下書き
補助金申請では、詳細な事業計画書が求められます。しかし、いきなり詳細版を書き始めると、迷走しがちです。
まず1枚計画書を作り、それを肉付けしていくという手順を踏むことで、一貫性のある申請書が作れます。
1枚計画書は、補助金申請の「設計図」として機能します。
社内での共有
意外と見落とされがちですが、1枚計画書は社内での事業共有にも有効です。
従業員や協力者に、事業の方向性を共有する際、詳細な計画書では伝わりません。1枚にまとめたものを共有することで、全員が同じ方向を向いて動けるようになります。
自分自身の振り返り
そして最も重要な活用法が、自分自身の振り返りです。
事業を進めていくと、日々の業務に追われ、当初の目的を見失いがちです。定期的に1枚計画書を見直すことで、「今、本当にやるべきことは何か」を再確認できます。
まとめ:1枚にできる力が、事業を成功に導く
事業計画書を1枚にまとめることは、単なる要約技術ではありません。事業の本質を見抜き、それを相手に伝える力なのです。
1枚計画書のメリット
- 相手の時間を奪わず、短時間で全体像を伝えられる
- 自分自身の事業理解が深まる
- 面談・プレゼンの質が劇的に向上する
- エレベーターピッチにも応用できる
- 詳細版の事業計画書の設計図になる
今日からできること
まず、既存の事業計画書を1枚にまとめてみてください。最初は難しく感じるかもしれませんが、何度も削り、磨き上げることで、本質が見えてきます。
そして、それを30秒で説明する練習をしてみてください。声に出して、録音して、聞き直して、改善する——この繰り返しが、あなたの伝える力を確実に高めます。
専門家の力を借りることも有効
「どうしても1枚にまとまらない」「何を削ればよいかわからない」という場合は、専門家の力を借りるのも一つの方法です。
中小企業診断士などの専門家は、多くの事業計画書を見てきた経験から、「これは残すべき」「これは削ってよい」という判断ができます。客観的な視点で、あなたの事業の本質を抜き出すサポートができます。
1枚にできる力が、事業を成功に導きます。
事業計画書の作成・要約でお悩みの方へ
「事業計画書が長くなりすぎて、要点がわからなくなった」 「1枚にまとめる方法を教えてほしい」 「エレベーターピッチの作り方を知りたい」 「金融機関に刺さる説明の仕方がわからない」
そんなお悩みをお持ちの経営者様を、私たちは全力でサポートいたします。
中小企業診断士として、これまで数多くの事業計画書の作成・ブラッシュアップを支援してきました。あなたの事業の本質を見抜き、1枚で伝わる計画書に仕上げるお手伝いをいたします。
1枚にまとめる力が、伝える力を劇的に高めます。

